TOP HISTORY 15年の軌跡 リレーコラム

進み続ける 伝え続ける

金光 一昭さん(ラジオパーソナリティ、ディレクター)Kazuaki Kanemitsu

より深く

 例えば、勝利した試合のヒーローに“その瞬間“のディテールを、例えば、勝つことのできなかったゲームの顛末をキャプテンに、例えば、シーズン終了後の総括を監督に時間の許す限り深く語ってもらい、その声を届けるのが2009年6月からスタートしたエフエム山口の「GO!GO!RENOFA!!」=ゴーレノです。

 現エフエム山口の営業局長兼東京支社長が「レノファのサプライヤーとなってレノファを応援しよう」という思いから始まったゴーレノ。元々ワイド番組内の1コーナーで、私が担当したのは2010年4月から。それ以前の9か月間のパーソナリティは現東京エフエムアナウンサーの鈴木明久さんでした。今は新型コロナの影響もありリモートでの収録で、DAZNのインタビュアーとしても活躍中のトクダトモヨさんが毎回選手から聴きごたえのあるコメントを引き出してくれています。

 2010年4月2日、私の担当初回のゲストは、その前年中国地域リーグで得点王となったエースの福原康太。そこから丸11年、特番などの特別編成がない限り毎週休まずレノファ山口の監督、選手、スタッフ、ボランティアの皆さんの声とレノファの今を届けています。

2017年2月24日の「GO!GO!RENOFA!!」放送終了後、エフエム山口第一スタジオにて ゲストは鳥養選手

 現在ヴィッセル神戸のアカデミーでコーチングスタッフを務める友人が2001年にレノファ山口前身の山口教員団でプレーをしていたことを端緒とする私とレノファとのかかわりは、このゴーレノのパーソナリティ担当となったことでより深いものへと変わっていきました。

 ここでJリーグ加入以前の2014年までの番組によく登場してくれた選手の名前を一部並べてみます。

 2010年は福原康太をはじめ、安田忠臣、伊藤博幹、戸高研太、西川充。2011年は中山元気(当時は選手)、市原大嗣。2011年までは5人程度でローテーションでの出演でした。2012年は寺田賢人、中村優太、田村隆生、坂本博、2013年は中原丈聖、碇野壱馬、佐藤亨、馬場悠、平林輝良寛、2014年は岸田和人(おかえり!)、小塚和季、一森純、宮城雅史、孫正倫、岩渕良太などなど。

 それぞれが、それぞれに志と闘志を持ち、置かれた環境などに悩みながらもチームとそれを支える多くの人たちのために前向きに全力を尽くした愛すべき素晴らしい選手たちでした。

 ある日伊藤選手がスーパーサイヤ人のような髪色になってスタジオに来たことや、ユニークなキャラクターを持つ戸高選手がパーソナリティを務めるコーナーを本気で作ろうと思ったことをよく覚えています。

 

クラブを育てる力

 2010年前後、中国リーグを制した年もあったものの、周囲のレノファに対する関心は決して高いとは言えず、開幕戦こそ話題として取り上げられるも、そのあと試合によっては観客は数十人、メディア関係者は1人2人ということもしばしば。そしてレノファは、いい試合を作って勝ったかと思えば大事なところで勝ちきれない、もどかしいチームでもありました。

 維新公園ラグビーサッカー場で行われた、ある試合。冷たい雨の降るとても寒い日で、カッパを着て震えながら見ていたゲームは90分までレノファ1点リード。ここでの勝利がこの体の凍えを癒してくれるはずだったそのアディショナルタイムに、単純なミスからの失点で引き分け…。

 そこで差し出されたのが、前述した現エフエム山口営業局長の奥様が水筒から注いでくれた暖かいコーヒーでした。あの日、あの一杯でどれほど救われたことか。

 その奥様はもうずっとTeam BONDSでボランティアスタッフとして頑張っていらっしゃいます。

 一方で、2013年の中国地域リーグ第7節デッツォーラ島根戦で見せた中原丈聖の決勝点となるスーパーミドルシュート。2015年のJ3最終戦、常にリードされる苦しい展開ながら、その年得点王の岸田和人とキャプテン平林輝良寛のJ2への切符を手にした執念の同点ゴールなどなど、歓喜の瞬間も幾度となく経験しています。

2013年9月14日 中国サッカーリーグ第7節vs.デッツォーラ島根 実況席にて

 J3最終戦の時は、その試合終了後すぐにスタジアムを出て携帯電話で、その時間放送していたワイド番組を通してサポーター、リスナーの皆さんに鳥取からJ2昇格決定の報告をさせていただきました。

 私はゴーレノをはじめ幾つものレノファ関連番組の制作を通じて、選手、監督、スタッフ、スポンサー関係の方、そして多くのサポーターと話す機会を得ることができました。その中で感じたのは、素晴らしいプレーに対する高揚感、勝利の喜び、失策に対するやりきれなさ、勝てないことのくやしさなど、その一つ一つの感情がクラブを育て、クラブを強くするということ。勝って酒を飲み、負けて酒を飲む。試合を振り返り各々が評論家のごとくレノファを語る、そのクラブに対する「関心力」は、持続する、成長するチームをその街に存在せしめる原動力の一つだと思います。

 

続いていく

 2013年からは私の勤める放送局で年一回の実況中継を実施。このころは地域リーグの県域民間放送での実況中継は他ではなかなかないということで、多方面からかなりの関心を寄せていただきました。

 私は総合的な調整と番組構成、当日の演出を担当。実況の経験はありましたが、実況中継番組の制作は初めてということで、20代前半にサンフレッチェ広島の実況番組でお世話になったRCC中国放送の知人に電話し、様々なアドバイスをいただきました。

この時の実況はフリーのアナウンサーにお願しましたが、その実況担当者用に資料を作成しようにも、中国リーグということでインターネットにも書籍にもほとんどチームや選手のデータが出ておらず、クラブの広報担当者にアンケート形式の書類を送り記入して返送してもらうなど、ここでも多くの方にご協力をいただきました。

 スタジアムにもなるべくたくさんの方に足を運んでいただきたいということで、クラブの広報展開とともに、番組宣伝と来場促進を目的とした、ラジオCMと同じ形式で放送する“20秒のお知らせ”を大量投下、あわせて各ワイド番組などでの告知なども行い、結果3700人を超えるサポーターがスタジアムに。もちろんそのシーズンの最高入場者数となりました。

 デッツォーラ島根とのこの一戦、結果は前述した中原の美しい決勝ミドルで1-0の勝利。

 あの時の、これまでのゲームとは全く違う、サポーターが集い轟たる地響きを感じさせるスタジアムを山口で初めて体感できたことに鳥肌が立ったことを今でも昨日のように思い出します。

 2014年は8月2日JFLセカンドステージ第3節のソニー仙台戦。観客は3059人。実況担当は前年と同じくフリーアナウンサーの三宅きみひとさんで、解説も前年同様このリレーコラムにも寄稿された、当時レノファ山口スカウティングスタッフだった山本賢一郎さん。ゲームは小塚、鳥養と岸田の2ゴールもあって4-1での快勝でした。

 2015年、Jリーグに上がってからは制作全般に加えて実況も私が担当。解説には元代表クラスの方に来ていただくようになり、加えてゲーム前のステージでのイベント実施やスペシャルゲストをお迎えするという華やかなものに変わっていきました。2015年は8月15日のFC琉球戦、入場者数は約8500人。岸田のハットトリックほかで5-0と圧勝。2016年はJ2第28節8月11日セレッソ大阪戦。入場者数はスタジアム改修前の満席に迫る14500人超。この年まで、実況した試合の入場者数がその年の最高入場者数となりました。一方で試合は0-2で敗戦。エフエム山口が実況中継実施のゲームで初めて星を落とした試合となりました。

2015年8月15日 J3リーグ第26節vs. FC琉球 解説は元日本代表ディフェンダー名良橋晃氏(写真右)

 実況中継やそれに伴う事前イベントは、その成功、すなわち聴取者や提供社の満足度の最大化に向け制作や営業活動その他の準備を十全に行うことを目指します。ところがいくつかのミスやトラブル、想定外の事象は少なからず発生する。私はこの作業の渦の中心で激しく揉まれ揺さぶられながらも目的に向かい必要なアクションを継続する中で、レノファが試合に臨むも、それ以前に監督選手を含め多くのスタッフが様々な準備をするのも、勝利をつかみ、クラブを存続させ、取り巻く環境の向上と、物心両面からサポートしてくださるすべての方たちとともに更なる高みへとむかうためなのだと改めて気づきます。

 様々な意味で次元は違えど、クラブが目標に向かって努力し進む姿を、自分や組織やシステムに重ねて、勇気や覇気をもらえる。15年がたちまた一つ節目の年を越えていきますが、レノファ山口FCのチャレンジはこれからも続き、これまで通り私たちに夢と希望と楽しみを与え続けてくれるのだと思います。

 

 例えば、優勝の歓喜を番組を通して共有し、例えば、J1昇格の喜びを監督選手、サポーター、関係者の声を届けることで分かち合う。 ― その瞬間を待ちながら、今週も私はレノファ山口の今をあなたに伝えます。

 

 

「GO!GO!RENOFA!!」はその放送のすべてをアーカイブしています。歴代選手の当時のインタビューを選手名でも検索できます。ぜひご利用ください。

http://www.fmy.co.jp/blog/renofa.php

「GO!GO!RENOFA!!」リポーターのトクダトモヨさんと 新山口駅北口駅前広場の「ゼロスタジオ」前にて


金光 一昭さん(ラジオパーソナリティ、ディレクター)Kazuaki Kanemitsu

1968年1月12日生。広島県出身。エフエム山口編成制作部次長。
毎週金曜午後1時30分~6時55分放送の「Happy Happy FRIDAY」パーソナリティ。
同番組内午後5時40分からの「GO!GO!RENOFA!!」を2010年から担当。
番組制作ほかエフエム山口のスポーツ実況も務める。

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